四代目店主のブログ

2020年3月14日

床の間 紋縁(もんべり)


岐阜市内のお客様ですが、祖父の頃からお世話になっている方のお宅の畳のお仕事をさせて頂きました。

8畳間と6畳間と床の間の表替え。

こちらは、最近の家ではなかなか見かけなくなってしまいましたが、床の間です。

張替え前の状態

床の間といえば、来客があった時にそのお客様をお通しする部屋にあり、ゆかを一段高くした所です。現代ではそこに掛け軸を掛けたり、お花を飾ったりしますよね。そうしたお部屋には座敷机があり、床の間が有る方(上座)にお客様に座って頂くといった日本の昔からのおもてなし文化の象徴かと思います。

「床」とは、座ったり寝たりする一段上がった所の事を指しますが、床の間はいつ頃からあったのか。

所説ありますが、床の間の起源は平安時代になります。貴族たちが神殿造りの家に住んでいましたが、当時の床は板張りでまだ畳というものも無い為、床に敷く敷物がありました。この敷物はゴザやムシロとよばれ、イ草や稲わらを織った物だったそうです。

このイ草で出来たゴザはムシロに比べ肌触りがよく、上質な敷物とされ、さらに高貴な人しか使用することができなかったのです。

その後さらに座り心地を求めたのでしょう。ゴザに厚みを持たせたことでできたのが今の畳に繋がったのだと考えられます。

そして室町時代に入り武家社会となると、家の造りも書院造りとなり、畳を部屋に敷き詰める様式が増えてきたことで、高貴な人のみが使えるはずだった畳がそれ以外の人にも使われるようになり、畳の存在の意味合いが大きく変わっていきました。

そこで身分の上下をハッキリさせるため、「上段の間」と「下段の間」が作られ、君主は上段で家臣は下段という具合に部屋に段差を設けることになりました。

しかし中流の武家などではそのような大きな部屋を設けるのは困難であったため、上段の間を極力小さくし現在につながる床の間ができ、またそこに近い方を上座として扱うようになったと言われています。

この床の間によく使用されるヘリを紋縁(モンベリ)と言いますが、よくお寺で見かける物ですが、直径が4cm程の丸い紋が連なったヘリを使いました。

こちらですね。

通常の畳であれば畳床と畳表と畳縁を同時に縫い付けます。これを専門用語で「平刺し(ひらざし)」といいますが、床の間には畳の土台となる畳床が板で出来ている物もあり、これがまさしくそうです。

この場合、まず紋縁を畳表に縫い付けたあと、板に縫い付けて行くこととなります。

こちらがその「平刺し」。先程の紋縁を裏返し、その上にヘリ下紙と呼ばれる紙を乗せ縫っていきます。通常の畳なら機械で縫うことも出来ますが、こればっかりは手縫いとなります。

紋縁はヘリを起こしたときに丸い紋が綺麗に出るようにしなければいけません。紋が欠けたり、本来見えるはずのない裏側に収まるはずの紋が見えてもいけません。

ですので寸法を確認しながらの作業なのですが、ご覧の通り紙があるので紋の位置が分かりません。これをずれない様に、且つ時間がかからない様に早く仕事をするのが職人というもの。

これをミシンで縫ってしまうお店もあったりホッチキスで留めてしまうお店もあるようですが、当店では昔ながらの手縫いの技法で仕上げます。

この方が仕上がりが綺麗なんですよね。

それが出来れば今度はゴザを板に縫い付けます。

これもゴザを裏側でホッチキスなどでバチバチと留めてしまうお店もありますが、当店はこちらも手縫いの作業となります。

ゴザと木の間にある黄色い糸がお判りでしょうか?

畳表をただ板の上に乗せてゴザが動かない様に縫えばいいというものではありません。

ゴザを乗せただけでは表面にシワが出てしまうため、板を反らせた状態で待ち針と呼ばれる太い針で仮止めをします。

その後畳表がピーンと張った状態を保たせる為この糸を適度に引っ張りながら板に縫い付けていくのです。

畳表の端は、切ったらそこからイ草が抜けていき解れてしまいますので、実はここにも隠れた作業があります。

「からくみ」とか「かがり」などと呼ばれる作業ですが、糸を使って端止めをしていきます。

畳表のひと山ひと山の中には経糸が入っており、これをひと山ずつ別の糸を用いて絡げていくことでイ草の解れを無くします。

画像では分かりにくいかもしれませんが、かがった糸は緩ませずしっかり糸を締め、締めた時に出来る球はひと山の中央へ持っていき、且つ経糸は裏側に回るようにしなくてはいけません。

私が京都へ修業に行って、最初に教えて頂いた仕事がこの「からくみ」でした。

お店に入れて頂き、まずはこれができるようになるまでひたすら練習。

ただひたすらです。畳表の端止めをする作業。しかし、ただそれだけの事ができないのです。

初めはうまく糸が締まらず経糸も裏にまわらない、仕事が汚い上に時間もかかる。そればかりしていると指の皮が捲れてきて血がにじむ・・・テーピングをする・・・これでお金が、お給料が頂けるわけがありません。

だからと言ってほかに出来ることがありません。

「これが丁稚奉公というものか・・・」と何も出来ない無力な自分がいることを痛感したものです。

しかし、この作業メチャクチャ大事な作業なんです。

畳表と床に縫い付ける時、縫い糸を引っ張るとイ草が切れてしまうことが稀にあるのですが、このからくみの糸があるおかげで糸がひっかかってくれますので縫い付けることができるのです。

またこのからくみ糸ががギュッとしまっていないと、いくら縫い糸をしめたところで、テンションのかかった畳表は緩んでしまい、しわがでてしまうのです。

この作業、京都にいる時はほぼ毎日しておりましたので、始めた頃は1辺に10分以上かかっていたのが、最終的には2分程で出来るようになりました。

それが岐阜へ帰って来て驚きました。どうやらこの技法は京都独特の物のようです。個人的には、これなくして高級畳の手縫い作業は語れないと思います。

さて仕上がりがこちら。これを仕上げるのに半日はかかります。全て手作業ですから当然ですね。

今となっては一枚の畳を当然の様に作ることが出来ますが、何もできなかったところから始まった修業時代があっての今なんだと思うようになりました。

22歳で京都での修行を始め、今は44歳。

ちょうど私が京都から帰ってくるときの親方の年齢と同じになりました。

これからも教えて頂いた技術を大事にしていかなくては!


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